ボルトランドセメントによる構造物の歴史は約100年、20世紀の社会と文化を支えてきた主要な材料です。コンクリート構造物は社会基盤を構成し、同時に21世紀に引き継ぐべき財産でもあります。地震・台風などの外乱に対し安全性と耐久性が求められ、資源・環境・エネルギーへの配慮も必要です。
こうした中、生コン自体の流動性を大きく求めた高流動コンクリートも開発されてきました。ことに東京大学工学部岡村教授は「ハイパフォーマンスコンクリート」の発表において、「従来の打設作業における バイブレータを使用した振動締固めという苦役作業を解消し・・・」とマスコミPRをなされ、増粘剤系高流動コンクリートが自己充填形の万能コンクリートであるかのように扱われた時期もありました。
さらに各セメントメーカーや添加剤メーカーからも
などの名称で各種の発表がなされました。
私どもはコンクリートバイブレータメーカーですが、そのコンクリートに十分な強度と耐久性が保証される限り、これに異を唱えるものではありません。
今日、日本コンクリート工学会においては、高流動コンクリートとは、フレッシュ時の材料分離抵抗性を損なうことなく、流動性を著しく改善したものととらえ、業界内ではそれを達成すべく2つの方向に分かれています。
当社は新しい生コンが開発されることは喜ばしいことであると思いつつも、元来、人の管理の元で無機質材料の混合物として成り立づているコンクリートに、添加剤として多量の有機物を加えることに大きな危惧を表明します。十二分に品質と施工が管理された在来型の生コンを使用し、プール養生などの十分な養生を経て構造体として完成された東京湾横断道路の耐久性においても、まあ100年は大丈夫でしょうと言うレベルなのです。
目先の流動性を求めるがゆえに、無機質材料以外で混合構成をする事は、まだ耐久性において出たとこ勝負。今がよければ30年先は知らないよでは、後 世に引継ぐべき建設に携わる一員として、あまりに無責任であると思います。言い換えれば、キチッと締め固めの出来ない様な、意匠優先の設計がなされるべきではないと思います。高流動コンクリートは万能コンクリートではあり得ません。どうしても複雑な形状となるといった自己充填を必要とする場所での利用に限定されるべきと考えます。貴方が自社ビルを建築する時、耐久実績が示されていない高流動コンクリートで建てますか?
コンクリート二次製品工場においても、作業環境改善の要請から、高流動コンクリートの実験が数多く行われ、シーソーの様な揺動式打設装置(振動機ではありません)との組み合わせも目にすることがあります。(なぜ揺動式かというと、前記1のタイプの高流動コンクリートは、「振動が効かない生コン」だからなのです)
しかしビンガム近似体と位置付けられる従来の生コンと違って、水の様な生コンを、ただでさえトロ漏れする様な型枠に投入しても、まともな製品が生まれる訳もありません。高流動コンクリートを試すなら、側圧を設計要素に織り込んだ型砕から話が始まらなければならず、次に本当に振動がいらないのかの検証がなされるべきです。この分野でのカギは配合設計と、型枠と、打設方法にあります。
私どもの企業理念の一つは、振動の分野において世界一の専門家集団になることです。結果として良いコンクリート構造物が生まれなければ、私どもが世の中のお役に立ったとは言えません。販売店様、レンタル業社様、コンクリート二次製品工場様、そしてすべてのユーザー様と手をたずさえて、良いコンクリート作りのお手伝いをして参りたいと念願しています。
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