WEEK 38
台風15号は大きな被害と首都圏の混乱を残して北海道東方洋上に去ってゆきましたが、先週の記事「「越流されたら、切れない堤防は無い」っていう土木の常識、イロハのイ」に、ご質問を頂いていたのでたった3日しかなかった38週の記事にさせて頂きます。
バイブレータ屋のオヤジとしては「コンクリートからヒトへ」を打倒する為にダム有用論を語りたい所ですけど、まずは「堤防決壊」について。
決壊の「決」の字サンズイつまり水や川の右側に「夬」(カイ ケ わける)がついています。
「夬」は古い字では「叏」で、刃物で切ったりえぐり取ったりするの意味だそうです。
「決」を使う熟語には、決断・決定・決意・決勝戦・決死隊など「ヒトが意志で決める」っていう感じが強く含まれていると思いませんか?
実は元来「決」は、これ1文字で、意志を持って「堤を切る」ことを意味していました。
広辞苑で「決壊」をひけば、(堤防などが)切れくずれること。切りくずすこと。と出てきます。
「えっ!!堤防をわざわざ切り崩すの?
そんな事したら洪水になっちゃうじゃん」という、現代の我々には少々理解しずらい概念ですね?!
川の流れには必ず右岸と左岸があります。
(川下に向いてあなたの右側が右岸、左側が左岸です。)
右岸側には住宅や工場や発電所や商店街があるとしましょう。
左岸側は田んぼです。
台風15号であなたの川は大増水!!
このままでは川の水が「両岸の」堤防を越えて氾濫、大洪水間違いなし!
田んぼを作ってきたお百姓さんには申し訳ないですが、ぼくが河川管理者なら即座に左岸の堤防を切る命令をします。
堤を切れば水の流れが一挙に変わり、上流も下流も水位が下がるのはご理解頂けますよね。
専門用語では「川の洪水疎通能力」を破堤により極大化してしまう。
簡単に言えば左岸を大洪水にしちゃうのですから・・・
漢書に「治水に決河深川あり」という言葉があります。
日本には「わざと切り」という言い方もあります。
右岸を助ける為に左岸の堤防を切ることや洪水後の内水排除策をいいます。
「河を決する」には、とても重大な「決断」が要ります。
片方は助け、もう片方には大災害を押し付けちゃうのですから。
違う使い道では「水攻め」という手法になります。
秀吉の備中高松城攻めがこの手法でした。
あるいは昭和13年6月には、支那軍は我が皇軍の武漢侵攻を恐れて黄河の堤を爆破してしまいました。
死者32万人、住めなくなった中国人が63万人といわれる「以水代兵」(水をもって兵に代える)策です。
3っ目の例えです。
江戸川をはさんで、三郷市長と流山市長がケンカして、三郷側は堤防を5mも嵩上げしちゃいました。
大雨がくれば、必ず流山側だけに被害が出ます。
さぁ~流山市民は怒りました。
「エクセンのバイブレータを掛けて10mのスーパー堤防を作ろう!」
ありゃ??
これを「我田引水」と申します m(_ _)m
流山と同じ左岸でも下流域の松戸市民は三郷を応援します。
だって自分ちの上流で溢れといてくれれば、自分の所の川の水位が下がって氾濫の危険が遠のきますからね。
脱線しましたが、「治水」というのはこういう事なのです。
だから江戸川の上流、利根川に八ッ場ダムが必要なんです。
八ッ場ダムは電気だって起します!
ヤッシー田中康男や前原誠司みたいなのから、中川博次京大名誉教授(ダムによらない治水委員会委員長)、淀川水系流域委員会の芦田和男京大名誉教授から中村正久滋賀大環境総合研究センター長みたいに2000年から今まで膨大な費用(税金です)と時間をついやしても、何ひとつ「安全」の向上に寄与していない連中にだまされてはいかんのです。
たかだか4年やそこらで代わる政治屋どもが、ムードやスローガンでいじっていい事ではないんです。
急峻な地形の国土。
外国とは比較にならない降水量。天井川。都市部の人口密度。
「治水」や「防潮」は国家100年、いや1000年の大計と当面(30~40年)の組み合わせでなされなければならないモノです。
ナニが「コンクリートからヒトへ」じゃい!!と、エクセン社長が怒り続けている理由がこれです。
さて、越流(あるいは越水 オーバートッピング)と切れない堤防 の本題に戻りますが、前提として「川に流れているのは水だけではない」事をご理解下さい。
(河川工学では「水7土砂3」と教わります)
堤防の基本構造(提体といいます)は「土」でできています。
(そりゃそうだ、コンクリートやロックフィルで作ったら超~長いダムを右岸左岸に2本も作ることになっちゃって「脱ダム」じゃなくなっうちゃうから、民主党御用学者の意地にかけてもコンクリじゃ作りませんわ。
ははは)
土というものは水の含有により性質を一変させます。
地下水や浸透水で飽和度が80%になると土壌の強度は急激に低下します。
加えて、提体川側から水による横向きの圧力が掛かっているので、提体を持ち上げようとする揚圧力も生じています。
堤防にはHWL(計画高水位)という設計基準がありますが、水位がこれを超えると破堤の危険度は急激に高まってきます。
(「キャサグランデの浸透圧理論」とかに出くわしてでも詳しく知りたい方は、元日本大ダム会議議長の大根義男先生の論文をお読み下さい。)
まして、越流です。
提頂を超えた水と土砂は、川の反対側の法面をもえぐり(「決」ですね 洗掘 エロージョンといいます)ます。
この頃には提体か基礎からの漏水(パイピング)も始まって、裏法面の基部の「ガマ」からは水が噴き出しているでしょう。
かくして破堤に至ります。
「ダムによらない治水委員会」が言う「越流すれども破堤せず」なんて幻想です!
まして「緑のダム」なんて「コンクリートからヒトへ」と同じ。
こんな幻を説く先生達に土木を習ってしまった技術者は不幸です。
ご質問を下さった○様に是非お読み頂きたい本があります。
京大の修士を出て建設省入省、土木研究所のダム部長をなされ現富士常葉大名誉教授の竹林征三さんが書かれた。
「ダムは本当に不要なのか」ナノオプトニクスエナジー出版局
「ダムと堤防」鹿島出版会
同じ京大の藤井聡さんのご本同様に、名著です。
